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とうとうその床屋さん、最後はもう1回おれも紋別というふるさとでまちおこしをやるぞと言って終わるんですね。
そういう意味では、1つの作品をつくるにも、特定の何百キロも離れた都会の、いわゆるリファインされた、著名な方のものではなくて、北海道の、吹雪に魂をさらして生きていく人々が、「うん、この土地ならこういうものが」というふうな、そういう土地のニードをしっかりととらえた台本があって、演出家がいて、そして何十年も紋別で頑張ってきた名優がいて、初めて感動深い舞台になるわけですね。そういう意味では、何といっても、地域おこしとのかかわりがとても印象的であったと思います。地域おこし自体が芝居のテーマになっているわけでございます。そういうようなことで、どんな暮らしのふるさとを創造していくかという地域の願いにぴたっと合った作品でした。ああいう作品が、これから各地で生まれてくる、生まれてくるそのべースがホールになっていく。そういうことだったらどんなにすばらしいことかと私は思うわけです。
それがさらにさらに密度を高くしていいものになっていけば、必ずやそれは全国巡演できるものへと成長していきます。必ずやそれはやがて海外公演もできるものへと育っていけると思います。世界へと発信できると思います。これからそういうものに発展していくという可能性があるわけでございますが、それももとをたどれば、有名だからといってすぐにだれかを引っ張ってきて、名前につられて台本を書いてもらって、有名だからといって役者さんを引っ張ってきて、そして名が通っている劇団に頼んでやってもらって、はい、さよならで、帰ったら何も残らないというふうになっちゃうんですね。石にかじりついても、その地域に根をおろしたその土地なりの芸術というものを育てていく、そういうような確信をホールの方も持つし、アートマネージャーの方も持つし、地域の芸術家の方々も持つ、そういうような1つのネットワークというのか、そういうものがあって初めて地域ニーズの把握ができるし、それに基づいた企画ができるのではないかと思うわけでございます。
したがって、次に書いてございますとおり、「コミュニティや地域に潜在する課題の発掘」ということでございまして、先ほど紹介したル・ピュイ・デュ・フウの野外劇の場合は、本当に、テーマとなっている200年前のヴァンデ戦争は大変だったんですね。私たち、フランス革命というと、すごく格好のいい市民の大革命であったと思っておりますが、とんでもない。もう悲惨この上ない地獄の革命だったんですね。確かに、それによって市民主導の世界が開かれ、市民中心の歴史が始まったのは事実であるけれども、犠牲も多かった。その犠牲となったのが地域なんですね。もっと言うと、パリの犠牲になったのが地域

 

 

 

 

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